18日の朝日新聞に、『週刊ビッグコミックスピリッツ』編集部が、「『鼻血や疲労感はひばくしたから』という登場人物の発言がある12日発売号の『美味しんぼ』のゲラ(校正刷り)を、発売11日前に環境省にメールで送っていた」という記事が出ていました。

 環境省によると、1日に編集部から「被曝が原因で鼻血が出ることがあるか」といった内容の質問が電話とメールであった。その際、12日発売号の全ページが添付されたメールも担当者に送られてきた。

 同省は「こちらは求めていない。具体的な内容の訂正要求もしていない」としている。質問の回答期限は7日に設定されており、7日深夜にメールで回答したという。

 環境省は「他省庁にも関係する部分がある」として、復興庁や内閣府などに12日発売号の内容や編集部の質問内容を伝えた。だが、ゲラそのものについては「未発表の内容で慎重に扱う必要がある」として転送しなかったとしている。(以下略)

(朝日新聞デジタル 2014年5月18日07時07分)
美味しんぼ、発売11日前に環境省へゲラ送る 編集部


編集部は、「検閲」を求めたわけではないと釈明しているようですが、しかし、事前に環境省の意見を求めていることはたしかなのですから、「検閲」を求めたと解釈されても仕方ないように思います。なんのことはない、政府や自治体からの圧力にもひるむことなく、「福島の真実」を訴えている雁屋哲氏や井戸川前町長たちを尻目に、編集部は裏で当局にシッポを振って足を引っぱっていたのです。これじゃ環境省が「風評被害を煽る」として言論に介入してくるのは当然でしょう。

「風評被害」なるものが、安倍首相の「状況はコントロールされている」という壮大な嘘や未だに事故の収拾への目途さえ立ってない「福島の真実」を封印する方便に使われていることはあきらかですが、しかし、今回の問題についても、マスコミは、「ただちに健康に影響はない」と同じように、政府や自治体の「福島の復興に水を差す」式の問答無用の論理をただ代弁するだけなのです。

安倍政権は、特定秘密保護法の施行を先取りするかのように、メディア規制への布石をつぎつぎと打っていますが、『週刊ビッグコミックスピリッツ』の姿勢は、そういった政権の意向を反映したものと言えます。それは、コミック規制も然りです。いくら作者や読者たちがコミック規制に反対しても、発行元がこのテイタラクでは規制の流れを止めることができないのは当然です。そもそも『SAPIO』のような右翼的なカルト雑誌を発行している小学館に、「自由な言論」を求めること自体、八百屋で魚を求めるようなものでしょう。

「おじいちゃんは悪くないんだ」「おじいちゃんは正しかったんだ」という安倍晋三氏の個人的な感情によって突き進んでいる解釈改憲。そのためにふりまかれる嫌中嫌韓の空気。安倍政権が誕生した途端、その意向に沿うようにいっせいに右向け右したマスコミの姿勢は、見事としか言いようがありません。

今の状況を見るにつけ、「バカだ」「頭が悪い」「小心者だ」「臆病者だ」と言われていたひとりの男があれよあれよという間に権力を手中におさめ、気が付いたら恐怖政治が頭上をおおっていた、あのヒットラーとのアナロジーを考えないわけにはいきません。

「良心的」であるかどうかは別にして、辺見庸が言うように、今のマスコミが「ファシズムを誘導している」のは間違いないでしょう。
2014.05.21 Wed l 社会・メディア l top ▲