用事があって外に出たら、階段におばあさんが背中を丸めて腰をおろしているのが目に止まりました。外はうだるような暑さです。見ると、横に杖を置き、首にかけたタオルでしきりに汗を拭いていました。私は、もしかしたら熱中症かなにかで具合が悪いんじゃないかと思って、おばあさんに歩み寄り声をかけました。
「大丈夫ですか?」
「あっ、邪魔ですかね?」
「いえ、いえ、そうじゃないんです。具合でも悪いんじゃないかと思って」
「あっ、そうですか。親切にすいませんね」
そう言うと、おばあさんは、頭をぺこりと下げました。
「買い物に行く途中なんですが、ちょっと休ませてもらっているんですよ」
「ああ、そうですか。じゃあ、大丈夫なんですね」
「はい。どうも、すいませんね」
そう言うと、再び頭を下げたのでした。
別に「いい人」ぶるわけではありませんが、お年寄りは明日の自分の姿です。最近は特に、そんな思いを強くもつようになりました。スーパーに来ているお年寄りを見ると、ひとつひとつ値段を確認しながら慎重につつましく買い物をしている姿が印象的です。若い人たちのように、欲求に従って品物をカゴに放り込むといった感じではありません。それは、年金など限られた収入のなかで、やりくりしながら生活しているからでしょう。私も年を取ったら、ああやって生活しなければならないんだろうなと思ったりします。
厚生労働省年金局が発表した「平成23年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、平成23年度の時点で年金を受給している人の平均月額は、国民年金で54682円(厚生年金の受給権がなく国民年金だけの人は49632円)、厚生年金で152396円だそうです。これでは老後の生活がままらないのは当然でしょう。
一方、同じ厚労省の「国民生活基礎調査(平成25年版)」によると、全世帯の相対的貧困率は16.1%、17歳以下の子どもの貧困率は16.3%で、過去最高だそうです。
相対的貧困率というのは、OECD(経済協力開発機構)によって算出基準が定められており、全世帯の等価可処分所得(所得から税金や社会保険料などを差し引いた手取り額)を世帯員の平方根で割って調整した金額の「中央値」(真ん中の金額)のその半分の金額(「貧困線」)に満たない人がどれだけいるかを表したものです。平成25年(平成24年1年間の所得)の「中央値」は244万円、「貧困線」は122万円でした。
相対的貧困率はあくまでその国の所得格差を示す指標ですが、一方でこれは、6人に1人が年122万円未満(月10万円以下)で生活していることを表しているとも言えるのです。ただ、相対的貧困率で示される金額は子どもも含めた全世帯員の一人当たりの金額ですので、実際の生活状況は家族構成等によって多少異なるでしょう。しかし、単身者(一人世帯)の場合は、掛け値なしにこの金額で生活しているわけですから、「貧困線」より下にいる単身者はとりわけ深刻であると言えます。実際に、国民生活基礎調査にも、等価可処分所得の累積度数分布(所得分布)において、「『大人が一人の世帯員』は、等価可処分所得金額が30万円台から170万円台までに集中した分布になっている」という記述がありました。30万円から170万円と言えば、月に直すと2万5千円から14万円です。「豊かな国」の裏に、このような貧困の現実があるのです。
尚、下記の厚労省のサイトで、相対的貧困率の算出方法ついて詳しく説明しています。
厚生労働省
国民生活基礎調査(貧困率) よくあるご質問
また、ネットには、国際連合が発表した高齢者の貧困率の国際比較というのも出ていました。それによれば、日本は20%で、先進国のなかで4番目に高いのだそうです。ちなみに、アメリカは23%だとか。資料の典拠が示されてないので真偽は不明ですが、国民生活基礎調査の数字を考えると、高齢者の貧困率が20%という話も、満更ウソではないような気がします。これが単身になれば、もっと高くなるでしょう。
自分のことを考えても、厚生年金に10数年加入しているものの、それは若いときですので、年金額の算定基準になる「標準報酬月額」(所得額)はそんなに多くありません。その後は基礎年金(国民年金)だけです。高齢者の貧困問題は、決して他人事ではないのです。
しかも、世界でも稀に見る少子高齢化社会が到来しつつあるなかで、年金をはじめ社会保障自体は逆に後退しているのが現実です。これではますます生活がままならない人が多くなり、貧困率が上がるのは当然でしょう。
国家レベルでも個人レベルでも、もうどうしていいのかわからない。それが現状なのではないでしょうか。テレビ東京の経済ニュースのように、株価がどうのという問題ではないのです。
でも、そうは言っても今日を生きなければならない。生活しなければならないのです。爪に火を灯すような生活のなかで命をつないでいるお年寄りたちの姿は、間違いなく明日の自分の姿でもあるのです。
関連記事:
『老人漂流社会』
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別に「いい人」ぶるわけではありませんが、お年寄りは明日の自分の姿です。最近は特に、そんな思いを強くもつようになりました。スーパーに来ているお年寄りを見ると、ひとつひとつ値段を確認しながら慎重につつましく買い物をしている姿が印象的です。若い人たちのように、欲求に従って品物をカゴに放り込むといった感じではありません。それは、年金など限られた収入のなかで、やりくりしながら生活しているからでしょう。私も年を取ったら、ああやって生活しなければならないんだろうなと思ったりします。
厚生労働省年金局が発表した「平成23年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、平成23年度の時点で年金を受給している人の平均月額は、国民年金で54682円(厚生年金の受給権がなく国民年金だけの人は49632円)、厚生年金で152396円だそうです。これでは老後の生活がままらないのは当然でしょう。
一方、同じ厚労省の「国民生活基礎調査(平成25年版)」によると、全世帯の相対的貧困率は16.1%、17歳以下の子どもの貧困率は16.3%で、過去最高だそうです。
相対的貧困率というのは、OECD(経済協力開発機構)によって算出基準が定められており、全世帯の等価可処分所得(所得から税金や社会保険料などを差し引いた手取り額)を世帯員の平方根で割って調整した金額の「中央値」(真ん中の金額)のその半分の金額(「貧困線」)に満たない人がどれだけいるかを表したものです。平成25年(平成24年1年間の所得)の「中央値」は244万円、「貧困線」は122万円でした。
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尚、下記の厚労省のサイトで、相対的貧困率の算出方法ついて詳しく説明しています。
厚生労働省
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自分のことを考えても、厚生年金に10数年加入しているものの、それは若いときですので、年金額の算定基準になる「標準報酬月額」(所得額)はそんなに多くありません。その後は基礎年金(国民年金)だけです。高齢者の貧困問題は、決して他人事ではないのです。
しかも、世界でも稀に見る少子高齢化社会が到来しつつあるなかで、年金をはじめ社会保障自体は逆に後退しているのが現実です。これではますます生活がままならない人が多くなり、貧困率が上がるのは当然でしょう。
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