シリアでイスラム原理主義武装組織・ISIS(イスラム国)に拘束された湯川遥菜氏は、PMCという「民間軍事会社」を経営していたそうですが、ただ、新聞等の報道では会社のサイトはあるものの、事務所はなく経営実体は不明とのことです。ちなみに、PMCという社名は、英語の「民間軍事会社」を意味するPrivate Military Companyの略です。
湯川氏は、10年ほど前までは千葉でミニタリーショップを経営していたらしく、そのときの通販サイトもネットに残っていました(現在は、譲渡先の会社が別の店名で営業しています)。また、PMC社の顧問をしている元自民党茨城県議の話では、以前は「米国や英国から軍事物資を輸入し、自衛隊に納入する仕事に携わっていた」そうです。
一方、湯川氏のツイッターには、「シリアや支那を変えないといけないと思っています」というような政治的な発言もあり、フェイスブックやブログには、田母神俊雄氏とのツーショット写真や都知事選に出馬した同氏を応援するメッセージなども掲載されていました。
しかし、それより私が興味をもったのは、湯川氏が経営していた「民間軍事会社」なるものです。と言うのも、それは、安部政権が推し進める集団的自衛権行使の問題とも関連しており、私たちにとっても他人事ではない問題を含んでいるからです。
集団的自衛権の行使において、もっとも懸念されるのは、民間人が「軍属」として「徴用」され、否応なく戦争にまきこまれることだという指摘があります。どういうことかと言えば、「軍事の民営化」、戦争のアウトソーイングが現代の戦争の特徴だからです。欧米では既に戦争ビジネスは大きな産業となっており、現代の戦争は「軍事の民営化」、「民間軍事会社」をぬきにしては成り立たないと言われるほどです。
「軍事の民営化」には、言うまでもなく膨らむ一方の軍事費を抑制する目的があるのですが、しかしそれだけではなく、戦争の形態が変わってきたことも大きな要因だと言われています。
昔は、戦争と言えば、主権国家同士の総力戦(国民戦争)が基本でした。宣戦布告して、国家総動員体制でせん滅戦をおこなう、文字通り国をあげてやるかやられるか、死ぬか生きるかの戦争でした。それがブロック化し世界大に拡大したのが世界戦争(世界大戦)です。しかし、現代の戦争には、もうそういった宣戦布告も総力戦もありません。
笠井潔氏は、白井聡氏との対談集『日本劣化論』(筑摩新書)のなかで、19世紀は国民戦争、20世紀は世界戦争で、21世紀は「世界内戦」(カール・シュミットの言う「正戦」)が戦争の形態になると言ってました。
「世界内戦」というのは、戦争と呼べないような戦争です。宣戦布告もありません。言うなれば警察が違法行為をおこなう犯罪者を武力で取り締まるような形態の戦争です。もちろん、この場合、警察の役目を担うのは、唯一の超大国(覇権国家)であるアメリカです。「世界内戦」の代表的なものが、対テロ戦争です。でも、アルカイダは国家ではありません。そこにある戦争は、国家対国家の古典的な意味での戦争ではないのです。
しかし、その「世界内戦」にしても、様相が変わりつつあるのです。ウクライナやシリアやイラクを見てもわかるとおり、唯一の超大国であったアメリカが、世界の警察の役目を充分果たせなくなっているからです。要するに、アメリカが超大国の座から転落し、世界が多極化しつつあるからです。そのため、イスラム世界を中心に、アメリカを中心とする世界秩序(公法秩序)に反旗を翻す力が噴出し台頭しているのが今の状況です。「世界内戦」は、戦時国際法も及ばないほどより苛烈化し無秩序化しているのです。
私たちは、既に24年前(1990年)の湾岸戦争であたらしい戦争の姿を目にしました。クェートに侵攻したイラクに懲罰を課すため、国連による多国籍軍が組織されたという形態もさることながら、なにより私たちがショックを受けたのは、メディアの報道で目にした戦争の姿です。ハイテク兵器によって「ピンポイント爆撃」がおこなわれる模様が映し出された映像は、さながらシューティングゲームの映像のようでした。そして、ハイテク化はさらに進み、先日のイラク空爆に使われたのは無人爆撃機でした。そこで戦っているのは、アメリカ本国のオフィスで、文字通りゲームでもするかのように、インカムを装着しモニターを見ながら爆撃機を操作している兵士だけです。もちろん、それは別に兵士でなくてもいいわけで、実際にアメリカでは、「民間軍事会社」の社員が操作する場合もあるそうです。
つまり、現代の軍隊で大事なのは、銃をもって戦う前線の兵隊より戦争をプロデュースする司令官(プロデューサー)とそれを実行するために現場をサポートする下士官(ディレクター)です。あとは、テレビ番組の制作と同じように、アウトソーイングすればいいのです。前線に派遣する兵士も、予備役や傭兵のようにいざというときに調達できればそのほうが経済的にも効率がいいのは言うまでもありません。欧米の軍隊では、既に後方支援(兵站)の多くの部分が「民間軍事会社」に委託されているそうです。
『日本劣化論』のなかで、白井聡氏もつぎのように言ってました。
集団的自衛権行使が現実になり、自衛隊がアメリカの下請けをするようになれば、当然、経費の負担が大きくなりますので、欧米のようにできる限り民間に委託する方向にいくのは間違いありません。そこで必要になるのが、あの見ざる聞かざる言わざるを強制する特定秘密保護法なのです。
「軍事の民営化」がすすめば、私たちもいつ戦争と関わるようになるかわかりません。イスラム過激派に捕われYouTubeにアップされるのは、自衛隊員だけとは限らないのです。私たちがそうなる可能性だって充分あるのです。ISISは、湯川氏のことを「日本のスパイ」と言ってましたが、既にイスラム過激派の間では、日本人も「スパイ」として敵視されるような状況になっていることを忘れてはならないでしょう。能天気にネットで戦争を煽っている場合ではないのです。
集団的自衛権行使が招き寄せる「世界内戦」の時代は、戦争が日常化しより身近になるということです。兵士でなくても戦争の当事者になり、戦場が私たちの生活のなかにまで入り込んでくるということなのです。いつまでも”無責任な傍観者”でいられるわけではないのです。今回の事件は、そんな時代を先取りするものと言えなくもありません。
湯川氏は、10年ほど前までは千葉でミニタリーショップを経営していたらしく、そのときの通販サイトもネットに残っていました(現在は、譲渡先の会社が別の店名で営業しています)。また、PMC社の顧問をしている元自民党茨城県議の話では、以前は「米国や英国から軍事物資を輸入し、自衛隊に納入する仕事に携わっていた」そうです。
一方、湯川氏のツイッターには、「シリアや支那を変えないといけないと思っています」というような政治的な発言もあり、フェイスブックやブログには、田母神俊雄氏とのツーショット写真や都知事選に出馬した同氏を応援するメッセージなども掲載されていました。
しかし、それより私が興味をもったのは、湯川氏が経営していた「民間軍事会社」なるものです。と言うのも、それは、安部政権が推し進める集団的自衛権行使の問題とも関連しており、私たちにとっても他人事ではない問題を含んでいるからです。
集団的自衛権の行使において、もっとも懸念されるのは、民間人が「軍属」として「徴用」され、否応なく戦争にまきこまれることだという指摘があります。どういうことかと言えば、「軍事の民営化」、戦争のアウトソーイングが現代の戦争の特徴だからです。欧米では既に戦争ビジネスは大きな産業となっており、現代の戦争は「軍事の民営化」、「民間軍事会社」をぬきにしては成り立たないと言われるほどです。
「軍事の民営化」には、言うまでもなく膨らむ一方の軍事費を抑制する目的があるのですが、しかしそれだけではなく、戦争の形態が変わってきたことも大きな要因だと言われています。
昔は、戦争と言えば、主権国家同士の総力戦(国民戦争)が基本でした。宣戦布告して、国家総動員体制でせん滅戦をおこなう、文字通り国をあげてやるかやられるか、死ぬか生きるかの戦争でした。それがブロック化し世界大に拡大したのが世界戦争(世界大戦)です。しかし、現代の戦争には、もうそういった宣戦布告も総力戦もありません。
笠井潔氏は、白井聡氏との対談集『日本劣化論』(筑摩新書)のなかで、19世紀は国民戦争、20世紀は世界戦争で、21世紀は「世界内戦」(カール・シュミットの言う「正戦」)が戦争の形態になると言ってました。
「世界内戦」というのは、戦争と呼べないような戦争です。宣戦布告もありません。言うなれば警察が違法行為をおこなう犯罪者を武力で取り締まるような形態の戦争です。もちろん、この場合、警察の役目を担うのは、唯一の超大国(覇権国家)であるアメリカです。「世界内戦」の代表的なものが、対テロ戦争です。でも、アルカイダは国家ではありません。そこにある戦争は、国家対国家の古典的な意味での戦争ではないのです。
笠井 (略)二〇世紀の世界戦争には、交戦団体が国家ではないゲリラ戦という逸脱も含まれていましたが、それでも基調は国家間戦争でした。しかし反テロ戦争では国家間戦争が中心的とは言えない。テロとも戦争とも決めかねる軍事力行使に、これまた国家間戦争ではない反テロ戦争が対抗する。
しかし、その「世界内戦」にしても、様相が変わりつつあるのです。ウクライナやシリアやイラクを見てもわかるとおり、唯一の超大国であったアメリカが、世界の警察の役目を充分果たせなくなっているからです。要するに、アメリカが超大国の座から転落し、世界が多極化しつつあるからです。そのため、イスラム世界を中心に、アメリカを中心とする世界秩序(公法秩序)に反旗を翻す力が噴出し台頭しているのが今の状況です。「世界内戦」は、戦時国際法も及ばないほどより苛烈化し無秩序化しているのです。
私たちは、既に24年前(1990年)の湾岸戦争であたらしい戦争の姿を目にしました。クェートに侵攻したイラクに懲罰を課すため、国連による多国籍軍が組織されたという形態もさることながら、なにより私たちがショックを受けたのは、メディアの報道で目にした戦争の姿です。ハイテク兵器によって「ピンポイント爆撃」がおこなわれる模様が映し出された映像は、さながらシューティングゲームの映像のようでした。そして、ハイテク化はさらに進み、先日のイラク空爆に使われたのは無人爆撃機でした。そこで戦っているのは、アメリカ本国のオフィスで、文字通りゲームでもするかのように、インカムを装着しモニターを見ながら爆撃機を操作している兵士だけです。もちろん、それは別に兵士でなくてもいいわけで、実際にアメリカでは、「民間軍事会社」の社員が操作する場合もあるそうです。
つまり、現代の軍隊で大事なのは、銃をもって戦う前線の兵隊より戦争をプロデュースする司令官(プロデューサー)とそれを実行するために現場をサポートする下士官(ディレクター)です。あとは、テレビ番組の制作と同じように、アウトソーイングすればいいのです。前線に派遣する兵士も、予備役や傭兵のようにいざというときに調達できればそのほうが経済的にも効率がいいのは言うまでもありません。欧米の軍隊では、既に後方支援(兵站)の多くの部分が「民間軍事会社」に委託されているそうです。
『日本劣化論』のなかで、白井聡氏もつぎのように言ってました。
白井 (略)訓練というのは非常にコストがかかるから、なるべく安く上げるためにアウトソーイングする。そこで、訓練を専門にやる会社があります。もちろん、その会社の経営者は元軍人です。そういう人たちは、軍隊の中で出世するよりも起業して民間訓練会社をつくるほうが儲かると考えたわけですね。そういう軍の需要を当て込んだビジネスが増えている。これによって軍事とは何も関係なかった産業が関わりを持つようになってきている。外食産業がその典型です。駐屯地や基地での食事をアウトソーイングするのです。
さらには、戦闘員ないし準戦闘員(警備員)が民兵(雇われ兵士)になっている。まあ、準戦闘員というのは事実上戦闘員であると言われているのですが。つまり、国民国家の軍隊は国民の軍隊であるというのは、半ばフィクションになってきています。
集団的自衛権行使が現実になり、自衛隊がアメリカの下請けをするようになれば、当然、経費の負担が大きくなりますので、欧米のようにできる限り民間に委託する方向にいくのは間違いありません。そこで必要になるのが、あの見ざる聞かざる言わざるを強制する特定秘密保護法なのです。
「軍事の民営化」がすすめば、私たちもいつ戦争と関わるようになるかわかりません。イスラム過激派に捕われYouTubeにアップされるのは、自衛隊員だけとは限らないのです。私たちがそうなる可能性だって充分あるのです。ISISは、湯川氏のことを「日本のスパイ」と言ってましたが、既にイスラム過激派の間では、日本人も「スパイ」として敵視されるような状況になっていることを忘れてはならないでしょう。能天気にネットで戦争を煽っている場合ではないのです。
集団的自衛権行使が招き寄せる「世界内戦」の時代は、戦争が日常化しより身近になるということです。兵士でなくても戦争の当事者になり、戦場が私たちの生活のなかにまで入り込んでくるということなのです。いつまでも”無責任な傍観者”でいられるわけではないのです。今回の事件は、そんな時代を先取りするものと言えなくもありません。